教育専従科長の対談シリーズ・第2回

「科長の職場づくりへの想い」

科長 宮尾優紀子
(地域包括ケア病棟)
教育専従科長 飛田勇介

何事にも受身一辺倒の看護師が、講師役を経て自発的に取り組むようになったことが嬉しい

―各看護単位それぞれが、その部署の特性を踏まえた領域について他部署の看護スタッフに対して研修を実施するという試みを今年度から始められていますね。

飛田 看護部の人材育成方針が、実践ありきで人を育てるというものです。臨床現場で使える知識や技術を身につけるためには臨床現場での実践教育が効果的だという考えの下、それを最重要視し、部署が部門全体の職員育成を担うという試みです。講師は、従来のやり慣れた中間管理職やリーダークラスの者ではなく、この内容の研修では、これらの人に育ってほしいという観点で人選しました。そこには、講師と受講者が同期だったり、年齢や経験年数が似通った者同士というように、いわゆる中堅といわれる看護師同士を刺激しあうことで、セルフエフィカシーや様々なシナジー効果が生まれ、レベルの高い学び合いの風土を作っていきたいと考えています。その取り組みの中で、地域包括ケア病棟の退院支援研修はまさにそのロールモデルになっていると思っています。
宮尾 講師を担当しているのは当病棟の4年目の看護師、受講生も各病棟の同じ4年目の看護師で、座学からスタートしその後も毎月1度は研修を実施しています。講師を担当する看護師は、自身に退院支援に関する豊富な知識があるわけではないという気持ちがあり、講師をすることに不安な表情をしていました。初めは私と主任がその点を配慮することに気を付けて、研修の計画立案から実施に至るまでフォローするようにしていました。
飛田 講師役を担当することに不安な気持ちが大きかったのですね。
宮尾 受講生が同期なので、気心は知れていますが、その分逆にプレッシャーも大きかったようですね。それと、どうも新卒から地域包括ケア病棟の配属だったことから急性期看護の経験がないことに対してコンプレックスがあったようです。実際、最初の研修機会の時は、そういう気持ちで臨んでいることをとても感じました。

―その後、何か変化があったのでしょうか。

宮尾 研修の回を重ねるたびに、受講生から「退院支援についてとても勉強になった」というような感想をどんどんもらうようになり、無我夢中で取り組んでいたので、やりがいを感じてくれるようになったようです。そして、徐々に打合せでのスタンスにも変化が出てきました。積極的になってきたんです。受け身の状態から、自発性を持って取り組むようになってきました。それは所属長としてとても嬉しいことでした。
飛田 自発性を持って取り組むというようになったというのは具体的にどんな風になったのですか。
宮尾 退院支援について、他者に伝えなければいけないから新しい知識を自身が習得しておかなければならないとする必要に迫られての努力だけでなく、どうしたらもっと受講者が理解しやすいように伝えられるだろう、というような教えること・教え方についても、自ら勉強するようになってきたのです。

中堅看護師の積極性ある仕事ぶりや後輩への関わり方で、職場の雰囲気が変化してきた

―これは、「共に育つ」を体現するような事例ですね。

飛田 積極的でなかったのは自信がなかった時で、積極的になったのは同期の受講者からの良い評価があったからだと思うのですが、私が教えて頂きたいのは、その期間の宮尾科長の彼女らとの関わり方なんです。
宮尾 勿論、看護部の人材育成の一環で、自部署が担う役割を全うすることが大前提ですが、同時に経験年数ではなく、彼女らにホンモノの中堅になってもらうべく、この新たな取り組みを彼女らの成長機会と捉えて担当させることにしたわけです。本人たちは当初不安で乗り気ではない。任せるというのは簡単だけれど、乗り気でない者に任せる、ましてや知識経験ともにまだ不十分という状況がそこにありましたから、権限委譲という名のもとに単に任せるという接し方は所属長として無責任ですので、とにかくこの経験を持って成長してもらいたいと同時に、(プレッシャーで)つぶさないように配慮しなければいけないと、私自身も暫くして受講者からの反応を実感するまではソワソワドキドキが止まらない、そんな気持ちでした。だから、私と主任で、毎月毎月、計画と実施内容・方法について打合せをし、できる限りのアドバイスをするということに努めました。そういう基本スタンスで関わってきました。
飛田 やはり、受講者からの評価を得られるまでの期間、科長や主任が一緒に不安を乗り越えていく、というフォローがあって、心折れそうな講師役のスタッフも継続して取り組めたということだと思います。そういう土台があり、良い評価を得たことで、自発性が一気に芽生えたのでしょうね。部門全体を効果的な教育機会の整備と提供を担当する私にとっても大きな気づきの機会となりました。それと、教える側と学ぶ側はそもそも同じラインに立っていないことも多いと思うのですが、今回の話を聞いていて、教える側は、うまく教えられない経験をすることで、教えるということを学び、また、教えている内容を基本から振り返る機会になるので、これまでの経験に厚みができるのではないかと感じました。また、学ぶ側は、新しい知識を習得し、現状の仕事に厚みを加えていくことができます。この取り組みにシナジー効果が発揮されていることを感じましたし、同期からの高評価だったということもセルフエフィカシーが高まることにつながったのではないかとも感じました。
宮尾 研修の後半は、当病棟の看護師が他病棟に行く機会を作りました。この研修で得た成果は、他病棟からの学びを得る機会となったこと、他病棟のメンバーとも本音でコミュニケーションできるようになったことです。看護部の新たな教育方針により、私自身がスタッフの成長を目の当たりにすることになり、管理者としてとても勉強になりました。
飛田 彼女らも、また科長や主任も、おそらく先が見えない不安にいろいろな意味でしんどさや辛さを感じたのではないかと思います。ですが、まだ研修途中とはいうものの、地域包括ケア病棟は、部下の成長が実感できる研修を手がけることができた!そう思うと喜びだけでなく、これから楽しみになってくるのではないかと思いました。
宮尾 実際、目に見えて良い変化が起こっています。講師を担当してから彼らの病棟での仕事ぶり、後輩への関わり方、また、後輩からの関わり方も含めて、積極性が生まれ、職場の雰囲気がイキイキと変化してきたと思います。

看護師がスキルアップする上で横のつながりを大切に、お互いの学び合いを継続していきたい

―さて、今後に向けての抱負を聞かせてください。

飛田 私たちは「共に育つ」ということを大切にしています。この取り組みの初年度で、こうした事例が生まれたことは嬉しいですが、これをどのように次に繋いで、発展させていくかということをクリニカルラダーの改定も含めてもっとしっかり考えていきたいと思います。
宮尾 私はどうしても自分の部署のスタッフのことが可愛いので、こういう機会には贔屓目に話していると思われがちなんですが、教育専従の飛田科長が私たちのことをそんな風に思ってくれてホッとしています。今回の経験で得て、次につなげる中で大事にしたいことは、スキルアップする上では横のつながり、つまりお互いの学び合いを継続して、強化していくことかと思います。また、退院支援研修をブラッシュアップしていく上で、介護スタッフも参加してもらいフォローアップをしたり、各部署における退院支援の現状ももっと知りたいと思います。
飛田 私自身、現在は看護部の教育担当者ですが、教育・研修を考える上で、やはり、現場をもっと知りたいと思いました。実際に、科長や主任が相当な覚悟でスタッフを育てたいと思っていることは今日の話からもよく分かりました。その大変さも十二分にご存知だと思います。患者さんの安全を第一に考え担保するとともに、その看護に携わる人材の活かし方に気を遣う日常だと思います。そういう現場の状況をよく理解するために、もっともっと現場に足を運び、所属長をはじめとした多くの看護部職員たちとよく相談しながら、人材育成に関わっていきたいと思います。
宮尾 ありがとうございます。今回の取り組みを通じて、中堅看護師が積極的になることがイキイキとした職場づくりに繋がることを経験したので、引き続き、地道なコミュニケーションを欠かすことなく、スタッフと良い関わりを私自身も積極的にしていきたいと思います。

※聞き手 石田秀朗(人事コンサルタント)